前立腺癌について
前立腺癌の影響、進行、そして治療選択肢としての放射性リガンド療法の可能性についてご紹介します。
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前立腺癌は、世界的に男性において発症頻度の高い癌であり、2020年の前立腺癌罹患数は1,414,249人でした。国内では、2021年の前立腺癌罹患数は95,584人であり2a、部位別罹患数は男性で最も多く、2023年の死亡数は13,429人でした3。多くの場合、進行は比較的緩徐ですが、前立腺癌は世界中で今なお男性の死因の第5位を占めています。
前立腺癌は早期に発見して適切な治療を行えば治癒が望める一方で、進行例に対する治療選択肢が限られていることから、症状は大きなものとなっています。そのため、進行した前立腺癌に対する新たな治療選択肢が求められてきました4。
前立腺癌は前立腺を原発部位とする悪性腫瘍です。後天的な遺伝子変異(体細胞変異)の蓄積により、前立腺癌が発生すると考えられています。治療後の疾患進行は、悪性度の上昇や治療に対する耐性の獲得に起因する場合があります5。
前立腺癌のリスク因子には、先天的・遺伝的要因と後天的要因があり、代表的なものとして以下のようなものがあります6a。
加齢
前立腺癌のリスクは加齢とともに上昇し、高齢男性に多くみられます。海外の疫学研究では、前立腺癌の発症リスクは55歳から急激に上昇して70~74歳をピークとし、それ以降はやや低下することが示されています。日本における前立腺癌の発症ピークは75~79歳といわれています2b。
人種/民族
アジア人は白人や黒人に比べて前立腺癌の発症リスクが低いとされています。ただし、遺伝因子、環境因子、またはそれらの相互作用によってリスク差が生じる可能性があります。
家族歴
前立腺癌は悪性腫瘍の中でも遺伝的要因の寄与が高い癌です。前立腺癌の家族歴を有する男性では前立腺癌の発症リスクが高くなることがわかっています。
他にも、先天的・遺伝的要因には、生殖細胞遺伝子バリアント※が、後天的要因には、食生活・喫煙・運動・メタボリックシンドローム、肥満などがあります7。
※卵子や精子などの生殖細胞に由来する遺伝子の変化や変異
早期の前立腺癌は、無症状の場合も多いですが、以下のような症状が生じることがあります。1b 8。
*頻尿など
進行期の前立腺癌では、以下のような症状の悪化が生じることがあります。
*リンパ節転移による下肢や骨盤部の腫脹8
前立腺癌の診断には、以下のような検査が行われます1c 9。
直腸診(DRE)
医師が肛門から指を挿入し、前立腺の状態を確認する検査です。前立腺の表面の凸凹や、左右非対称など異常な徴候がないかを調べます。
PSA検査
前立腺特異抗原(PSA)は前立腺で産生されるタンパク質であり、前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられています。前立腺癌が疑われる場合は、まず血液中のPSA値を測定します。PSA値の一般的な基準は4.0 ng/mL以下とされています。なお、PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎など、癌以外の疾患で上昇することもあります。
画像検査
経直腸超音波検査(TRUS)および核磁気共鳴画像法(MRI)は、主に前立腺癌の早期発見と診断に用いられます。また、コンピュータ断層撮影(CT)検査はリンパ節や遠隔臓器への転移の有無を調べるため、骨シンチグラフィは、骨転移の有無を調べるために用いられます。
前立腺生検
自覚症状、PSA値、直腸診、MRI検査などから前立腺癌が疑われる場合、診断を確定するために前立腺生検を行います。方法は、肛門から針を刺す経直腸生検と肛門と陰嚢の間の皮膚から針を刺す経会陰生検があります。
臨床病期分類
前立腺癌の病期分類としてTNM分類を用いることが一般的であり、原発腫瘍の大きさや広がり、所属リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無で判定します。リスク分類については、NCCNのリスク分類を用いて判定します。
前立腺癌の治療の第一歩は、治療の必要性を評価することです。前立腺癌は、特に低グレードの腫瘍の場合は増殖スピードが遅く、治療が必要ないことも多いです。高齢の患者さんや、併存疾患により余命が10年以下であると考えられる患者さんでは、治療の必要性を検討します1d 10 11。
治療が必要と判断される場合は、以下のような治療選択肢があります。
監視療法
前立腺癌では、症状がないまま経過し、最終的に死亡の原因とならない場合も存在します。低リスクの早期前立腺癌では、定期的なPSA検査、DRE、定期的な生検によって癌を密にモニタリングする監視療法が選択肢となります。
手術
根治的前立腺全摘除術は局所前立腺癌に対する治療選択肢の一つであり、前立腺と精嚢を摘出します。手術の方法は、開腹、腹腔鏡(下)、ロボットがあり、近年はロボット手術が増加しています。
放射線治療
高エネルギーX線を前立腺の癌細胞に照射して破壊する治療法です。放射線治療は局所前立腺癌に対する一次治療として用いられ、癌の病期や特性に応じて手術やホルモン療法など他の治療法と併用することもできます。
薬物療法7
・ホルモン療法
前立腺癌細胞の増殖を促進するテストステロンなどの男性ホルモンの分泌や働きを低下させる治療法です。LH-RHアゴニストやアンタゴニストによるアンドロゲン除去療法(ADT)を基本として、リスク分類や病期に応じて抗アンドロゲン薬や新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)などが併用されます。
・化学療法
細胞傷害性の抗悪性腫瘍薬によって、癌細胞の縮小や消滅を目的とする治療法です。転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)や転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)に対して使用される場合があります。
・放射性医薬品
臓器転移がなく骨転移のあるCRPCに対して、放射線を放出する塩化ラジウム223が治療選択肢となります。
・放射性リガンド療法(RLT)
放射性核種を用いて特定のバイオマーカーを発現している癌細胞を標的とする治療法です。mCRPCに対する治療選択肢の一つとして新たに加わりました。
・PARP阻害薬
mCRPCにおいて、ゲノム診断で特定の遺伝子(BRCA1/2)に変異が確認された場合にはPARP阻害薬の使用が検討されます。
・免疫チェックポイント阻害薬
mCRPCにおいて、MSI検査陽性・TMB-Highの場合には免疫チェックポイント阻害薬の使用が検討されます。
前立腺癌の疾患進行は患者さんの生存期間と生活の質に影響を及ぼします。前立腺癌の疾患進行に気づくことは患者さんの転帰を改善する上で重要であり、治療法を見直す機会にもなります11。
前立腺癌の疾患進行の判定
疾患進行の判定は、治療法を見直す機会となり、患者さんの転帰を改善するために重要です。臨床では、治療を変更するタイミングを判断する際に考慮する因子がいくつかあります1e 11 12 13。
TNM病期分類を用いた癌の広がりと悪性度の評価
再発のモニタリング
癌に関連する症状のモニタリングと対応
臨床判断と専門知識
前立腺癌の治療において、定期的な経過観察は重要です。疾患進行を早期に判定し、監視することができるように、日常的な臨床評価(PSA検査、画像検査、身体診察など)によって、癌の状態の変化を追跡します。必要に応じて治療を個別に検討します。
患者さんの転帰を改善するためには、前立腺癌の適切な管理が必要不可欠です。適切なタイミングのフォローアップは患者さんへの質の高いケアの提供につながります。
PSMA検査など、前立腺癌の病態進行の判定についての詳しい情報は、こちら
遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に対するPSMAを標的とした放射性リガンドを用いた画像診断(治療薬の適応判定の補助に用いる)および放射性リガンド療法(RLT)は、放射性リガンドによって前立腺癌細胞を特定し、放射線を直接照射するセラノスティクスです。PSMAを標的としたセラノスティクスはPSMA陽性の前立腺癌患者さんにのみ有効です14 15 16 17。
PSMAを標的とした放射性リガンドを用いた画像診断(RLI) は、PSMA陽性前立腺癌細胞を可視化し、位置を特定する画像検査です。RLIの次に行うPSMAを標的とした放射性リガンド療法(RLT)は、放射性リガンドを用いて、標的となるPSMAを発現している癌細胞を傷害します14 15 16。
遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌を治療するためのRLTは、通常、次のようなプロセスがあります14 15。
PSMAを標的とするRLTは、PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌患者さんの治療薬として50ヵ国以上で承認されています。
DRE:直腸診
PSA:前立腺特異抗原
TRUS:経直腸超音波検査
MRI:核磁気共鳴画像法
CT:コンピュータ断層撮影
TNM:原発腫瘍、リンパ節転移および遠隔転移
NCCN:National Comprehensive Cancer Network
LH-RH:黄体形成ホルモン放出ホルモン
ADT:アンドロゲン除去療法
ARSI:新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬
mCRPC:転移性去勢抵抗性前立腺癌
mCSPC:転移性去勢感受性前立腺癌
RLT:放射性リガンド療法
PARP:ポリADPリボースポリメラーゼ
MSI:マイクロサテライト不安定性
TMB:腫瘍遺伝子変異量
PSMA:前立腺特異的膜抗原
RLI:放射性リガンドを用いた画像診断
1a 1b 1c 1d 1e Leslie SW, Soon-Sutton TL, R I A, Sajjad H, Siref LE. Prostate cancer. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; November 13, 2023.
2a 2b 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
3 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
4 Wang G, Zhao D, Spring DJ, DePinho RA. Genetics and biology of prostate cancer. Genes Dev. 2018;32(17-18):1105-1140. doi:10.1101/gad.315739.118
5 Wasim S, Lee SY, Kim J. Complexities of prostate cancer. Int J Mol Sci. 2022;23(22):14257. doi:10.3390/ijms232214257
6a 6b Gann PH. Risk factors for prostate cancer. Rev Urol. 2002;4 Suppl 5(Suppl 5):S3-S10.
7 前立腺癌診療ガイドライン 2023年版, 日本泌尿器科学会 編, メディカルレビュー社, 大阪, 2023.
8 Cancer Research UK. Symptoms of metastatic prostate cancer. Updated July 20, 2022. Accessed July 19, 2024. https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/prostate-cancer/symptoms
9 Cancer Research UK. Tests for prostate cancer. Updated April 7, 2022. Accessed July 19, 2024. https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/prostate-cancer/getting-diagnosed/tests-for-prostate-cancer
10 Cancer Research UK. Treatment options for prostate cancer. Updated July 5, 2022. Accessed July 19, 2024. https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/prostate-cancer/treatment/decisions-about-your-treatment
11 Cornford P, Tilki D, van den Berg, et al. EAU-EANM-ESTRO-ESUR-SIOG guidelines on prostate cancer. European Association of Urology; 2024.
12 Darwish OM, Raj GV. Management of biochemical recurrence after primary localized therapy for prostate cancer. Front Oncol. 2012;2:48. doi:10.3389/fonc.2012.00048
13 Canadian Cancer Society. Follow-up after treatment for prostate cancer. Updated February 2021. Accessed July 19, 2024. https://cancer.ca/en/cancer-information/cancer-types/prostate/treatment/follow-up
14 van der Heide CD, Dalm SU. Radionuclide imaging and therapy directed towards the tumor microenvironment: a multi-cancer approach for personalized medicine. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2022;49(13):4616-4641. doi:10.1007/s00259-022-05870-1
15 プルヴィクト®静注電子添文
16 ロカメッツ®キット電子添文
17 Duan H, Iagaru A, Aparici CM. Radiotheranostics – Precision Medicine in Nuclear Medicine and Molecular Imaging. Nanotheranostics. 2022;6(1):103-117. doi:10.7150/ntno.64141
RLT導入までの作業の効率化と不安要素の解消に努め、患者さんが安心して治療に取り組めるよう、治療のステップごとに必要な支援を提供します。